· CFO Sarah 財務・会計 · 9 min read
AI投資の資金は次第に負債とプライベートクレジットへ——BIS講演を財務担当はどう読むか
BIS(国際決済銀行)のゼネラルマネージャーは2026年9月10日、ムンバイでの講演で、AI投資ブームが次第に利益ではなく負債、とりわけプライベートクレジットで賄われるようになっていると述べました。設備投資とキャッシュフローの関係を、財務担当の視点で読み解きます。
※ 本記事は2026年9月25日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。
BIS(国際決済銀行)のゼネラルマネージャーであるPablo Hernández de Cos氏は2026年9月10日、ムンバイで開かれたGlobal Fintech Fest 2026で講演し、AIが経済に与える影響を3つの問いで論じました。本稿は、そのうちAI投資ブームの規模と資金源に関する部分を、財務の視点で読みます(出典: BIS 講演)。
1兆ドル超の見込みと、利益ではなく負債へ
講演は、最大手のビッグテック5社だけで、2025年から2026年にかけてAI関連の設備投資に1兆ドル超を支出する見込みだと述べています。世界のAI関連投資は、講演時点の約5,000億ドルから2030年までに3兆〜4兆ドルへ増えると、業界関係者が予想しているとも述べています。さらに、AI投資ブームは次第に、利益ではなく負債、とりわけプライベートクレジットで賄われるようになっていると指摘しました。金融安定を論じる箇所では、最大手企業の設備投資が今やキャッシュフローを追い越しており、この資金調達の多くは不透明で相互に結びついているとして、懸念の一つに挙げています(出典: BIS 講演)。
ここからは私たちの読みです。設備投資がキャッシュフローを上回る局面では、差額は手元資金の取り崩しか外部調達で埋めることになります。プライベートクレジットは一般に、公開市場を通さない民間の貸し付けを指します(講演の定義ではなく、一般的な理解です)。講演は企業名や調達の金額・内訳を挙げていません。
循環する資金調達と、条件付きの「バスト」
講演は資金調達の構造として、いわゆる循環的な資金調達(circular financing)を挙げています。チップメーカーやハイパースケーラーがAI企業に出資し、そのAI企業が出資元のチップやコンピュートの購入を約束することで、関係者が観察しにくく、ときに評価しにくい形で結びつく、と説明しています。そのうえで、AIのリターンが期待外れに終われば、投資の巻き戻しが現在の設備投資ブームを「バスト」(崩壊)に変えうると述べ、その危険を高める特徴として、AI企業間の投資の軍拡競争(激しい競争のもとで各社が資源を過剰に投資する恐れ)を挙げています。
歴史の類例として、1830年代の運河、1840年代の英国の鉄道、1920年代の電化、1990年代後半のドットコムの各ブームを挙げ、いずれも重要な技術的ブレークスルーに基づきながら、最終的なリターンで正当化できる以上の資本を引き寄せ、その後の調整は経済全体に影響したと述べています。ただし講演者は、AIブームが必ずそこに行き着くと言うつもりはないとしたうえで、現在の投資ブームの規模と速度、期待される商業的リターンの重みは「一定の注意」を要すると述べています(出典: BIS 講演)。
出資者が顧客や仕入先を兼ねる関係では、売上の大きさだけで取引の独立性を測れません。自社でも、主要な取引先が出資者や貸し手を兼ねていないか点検する価値がある、というのが私たちの読みです。
「減価」と「測った範囲」——財務担当が重く見る2点
講演は、BISの年次経済報告書2026が示すシナリオ分析(中央銀行の政策運営を論じる箇所)を踏まえ、AIの長期的な影響には大きな不確実性があり、その影響は、AIの進展が消費者需要にどれだけ依存するか、競争がAI部門の利益率をどう形づくるか、AI製品とインフラがどれだけ速く減価するかに左右されるとしています。また、複数のタスク単位の研究で、生成AIが生産性を10〜65%押し上げることが示されているとします。一方、ミクロの成果がどこまで経済全体の全要素生産性(TFP)に結びつくかは未解決の問いで、文献の推計は幅が広く、中央値はTFP成長率で年0.5ポイント程度の上昇を指すと述べています(出典: BIS 講演)。
財務担当が重く見るのは、「減価」と「測った範囲」です。設備やソフトウェアの更新サイクルが想定より短ければ、同じ投資額でも回収にかかる期間は延びます。10〜65%は複数のタスク単位の研究から出た幅であり、全社の利益にそのまま当てはまる数字ではありません。いずれも私たちの読みで、講演自身が企業の回収期間を論じているわけではありません。
まとめ
- BISのゼネラルマネージャーは2026年9月10日にムンバイで講演し、AI投資ブームの規模と資金源、金融安定上の懸念を論じた
- 最大手のビッグテック5社だけで2025〜2026年にAI関連設備投資へ1兆ドル超を支出する見込み。世界のAI関連投資は2030年までに3兆〜4兆ドルと業界関係者が予想
- 講演は、AI投資が次第に利益ではなく負債とプライベートクレジットで賄われ、最大手企業の設備投資がキャッシュフローを追い越していると指摘した
- 「バスト」はリターンが期待外れの場合という条件付きの懸念。講演者は必ずそうなるとは述べず、一定の注意を求めた
AI投資の話題は巨大企業の話に見えますが、財務担当が持ち帰れるのは作法のほうです。投資額とキャッシュフローを並べて見る。調達の手段と取引先との関係を点検する。効果の数字は、測った範囲を添えて使う。 規模が違っても、この3点は変わらないと私たちは考えます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。