· CAO Sophia 法務・コンプライアンス  · 9 min read

欧州委員会が「KIDS Act」を提案——AIコンパニオンとチャットボットにも及ぶ「安全設計」の義務を法務はどう読むか

欧州委員会は2026年9月17日、13歳未満のSNS利用を禁じ、アカウント開設の最低年齢をEU共通で15歳とする「EU KIDS Act」を提案しました。安全設計の義務はAIコンパニオンやチャットボットにも及ぶ内容です。成立前の提案段階であることを前提に、法務の視点で読み解きます。

欧州委員会は2026年9月17日、13歳未満のSNS利用を禁じ、アカウント開設の最低年齢をEU共通で15歳とする「EU KIDS Act」を提案しました。安全設計の義務はAIコンパニオンやチャットボットにも及ぶ内容です。成立前の提案段階であることを前提に、法務の視点で読み解きます。

※ 本記事は2026年9月21日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。

欧州委員会は2026年9月17日、未成年者のオンライン安全を高める「EU KIDS Act」を採択し、欧州議会と理事会に提出しました。13歳未満の子どもによるSNSへのアクセスを禁じ、自分のアカウントを開設できる最低年齢をEU共通で15歳とし、サービス提供者に「年齢に適しており、設計上安全であること」を示すよう求める提案です。成立した法律ではなく、これから審議されます(出典: 欧州委員会 プレスリリース)。

最初に確認したい——成立した法律ではなく「提案」です

法務の責任者として最初に確認したのは手続上の位置づけです。立法提案は欧州議会と理事会に提出され、審査と採択に向けた立法プロセスを始める段階にあります。欧州委員会は速やかな採択が不可欠だとしていますが、これは提案者である欧州委員会の見解です(出典: 欧州委員会 プレスリリース)。

私たちが確認したプレスリリースとQ&Aには、適用開始の時期も、EU域外の事業者への適用の有無も書かれていません。条文は未確認で、本稿は発表資料の範囲の読み解きです。

年齢の区分に加えて、安全設計の義務がAIにも及ぶ

年齢の区分は三段階です。自分のアカウントを作れるのは15歳からです。13歳以上15歳未満は、保護者が設定する「ミニアカウント」を保護者のアカウント経由で使い、1日1時間までの利用時間制限などの保護措置が求められます。3歳以上13歳未満はSNSにアクセスできませんが、子ども向けに設計された動画共有サービスには、保護者が管理するアカウントを通じてアクセスできます。プラットフォームは、保護者が利用を子ども向けサービスに限定し、1日最大1時間に制限できるツールを提供する必要があります(出典: 欧州委員会 プレスリリース)。

安全設計の義務は、SNSや動画共有だけが対象ではありません。18歳未満の利用者にSNS、動画共有、オンラインゲーム、AIコンパニオン、チャットボットを提供する全てのオンラインサービスが対象です。中毒性のある機能、停止点のない無限スクロール、睡眠時間帯のプッシュ通知、見知らぬ人からの一方的な接触などが禁止され、AIコンパニオンとチャットボットは「初期設定でオフにしなければならず、感情的依存を生む形で対人関係を模倣してはならない」とされています(出典: 同上)。

Q&Aは、AIについてより具体的です。未成年がアクセスし得るAIコンパニオンやチャットボットは、初期設定では子どもの過去の会話を後の会話に持ち越してはならず、提供前のリスクテストと提供後の害の監視が求められます。プラットフォームやゲームに組み込まれたチャットボットは、自動的にオンになってはならず、簡単にオフにできなければなりません(出典: 欧州委員会 Q&A)。

私たちの読みです。会話型AIの初期設定、記憶の扱い、関係性の築き方といった振る舞いの設計が、規制の対象として具体的に挙げられています。製品の仕様そのものが、法務の確認対象になり得ます。

「立証責任の転換」は誰に課されるのか

立証責任の転換は、冒頭の説明から受ける印象と違い、対象が限られています。Q&Aによれば、超大規模オンラインプラットフォームの提供者は、新しい制度の下で子どもと接する前に、全ての義務をどう満たすかを示すコンプライアンス計画を提出し、独立監査人の確認を受けます。EU域内の月間アクティブユーザーが4,500万人以上の最大級のプラットフォームは、自ら安全だと宣言するだけでは済まないと説明されています。制裁金は全世界の年間総売上高の6%に達し得るとされています(出典: 欧州委員会 Q&A)。

設計上の義務は広い範囲のサービスに、立証責任の転換と事前の計画提出は超大規模プラットフォームの提供者に課される構成だと、私たちは読みました。

日本の事業者への翻訳——いま点検できる3点

EU向けにサービスを提供している場合や予定している場合は、適用の可否を弁護士に確認することを推奨いたします。以下は私たちの考えです。

  1. 未成年が使える導線を棚卸しする。 チャットボットや対話型の機能のうち、18歳未満が実際に使えるものを一覧にします。

  2. 振る舞いの設計を仕様として記録する。 初期設定のオン・オフ、過去の会話の持ち越し、提供前のリスク確認を、仕様書とテスト記録に残します。

  3. 審議の動向を追う担当を決める。 提案は審議で変わり得るため、確認の担当と頻度を決めます。

まとめ

  • 欧州委員会は2026年9月17日、「EU KIDS Act」を採択し、欧州議会と理事会に提出した。審議はこれから
  • 提案は13歳未満の子どもによるSNSへのアクセスを禁じ、アカウント開設の最低年齢をEU共通で15歳とする
  • 安全設計の義務はAIコンパニオンとチャットボットも対象で、初期設定でオフにすることが求められる
  • 立証責任の転換は超大規模オンラインプラットフォームの提供者が対象で、Q&Aによれば制裁金は全世界の年間総売上高の6%に達し得る

成立前の提案を、確定したルールのように扱うのは正確ではありません。一方で、AIの振る舞いの設計が具体的に挙げられた事実は、法務として見過ごせません。確定を待つ間も、利用者の棚卸しと設計の記録という安全側の準備は進められると私たちは考えます。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。

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