· CAO Sophia 法務・コンプライアンス · 11 min read
AIと消費者の意思決定への対応をEU・米国連邦・中国で比較——消費者委員会事務局の概要報告を法務はどう読むか
消費者委員会の専門調査会は2026年9月18日の第10回会議で、EU・米国(連邦)・中国のAIと消費者の意思決定をめぐる制度的対応の委託調査について概要報告を取り上げました。基準日は同年9月9日で、三法域とも制度は完成した状態にないとされています。法務の視点で読み解きます。
※ 本記事は2026年10月1日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。
消費者委員会の「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」は2026年9月18日に第10回会議を開き、議事として「AI技術の消費者の意思決定プロセスへの影響に係る主要法域の制度的対応に関する委託調査」の概要報告(事務局)を取り上げました(出典: 消費者委員会 第10回会議ページ)。対象はEU・米国(連邦)・中国の三法域で、事実関係は会議の日ではなく2026年9月9日(基準日)現在のものです(出典: 消費者委員会事務局 資料1-1)。
三法域の整理と共通点——EU・米国・中国は「規律の置き方」が異なります
EUは、AI法を軸に、リスクの程度に応じて義務の内容を変える単一の枠組みを設けています。第5条は、意図的に操作的な技法や欺瞞的な技法などを用い、情報に基づく意思決定を行う能力を著しく損なうことによって人の行動を実質的に歪め、本来行わなかったであろう決定を行うこととなって重大な害を生じさせ又は生じさせるおそれがある場合などを禁止行為として挙げます。資料は、基準日時点で第5条を適用した行政の執行決定も司法判断も確認できていないとしています。また、適合を推定させる整合規格は、基準日時点で官報に参照が公表されたものを確認できておらず、加盟国の所管当局の設置の遅れ等により完全施行にも至っていません。AI法のほか、不公正な商慣行に関する指令、消費者の権利に関する指令、デジタルサービス法も、それぞれの適用範囲に応じて適用されます(出典: 消費者委員会事務局 資料1-1)。
米国(連邦)には、基準日時点でAIを対象として横断的に規律する法律は存在しません。FTC法第5条の一般条項、取引類型ごとの個別の連邦法・規則、法的拘束力のない任意のNIST AI RMFの三層に、州法の先行が加わる形で政策が展開されていると整理されています。前二者はAIの利用自体ではなく、既存法令上の禁止行為に当たるかで違法性が判断されます。FTCの政策声明案には、AIの正確性に関する表示と実際の挙動の乖離を欺瞞として捉える案などがありますが、基準日時点で最終的な声明に至っていません(出典: 同上)。
中国では、2026年7月にAIの擬人化された対話サービスを対象とする弁法が施行されました。この弁法は、生成AIによる対話サービス一般ではなく、中国国内の公衆に対し、自然人の人格的な特徴や思考・やり取りの様式を模倣し、感情面への配慮・寄り添い・支援等を含む継続的な感情の交流を提供するサービスが対象です。依存・のめり込みを誘導して利用者の現実の人間関係を害する「過度の迎合」(第8条第5号)や、不合理な意思決定を誘導して利用者の適法な権利利益を害する「感情の操縦」(同条第6号)等を明文で禁止しますが、該当性の確定した基準は確認できておらず、具体化は安全評価、書面審査、約談等の行政手続の運用に委ねられていると考えられる、とされています。中国の行政による執行については、事例が確認できないことは執行が行われていないことを意味しない点にも注意を促しています(出典: 同上)。
資料1-1は、三法域の規律に共通点が三つあるとまとめています。第一に、AIに固有の規律のみで、消費者の意思決定の保護が完結してはいないこと。第二に、AIという技術それ自体を一律に規律するのではなく、用途、機能、リスク又は具体的行為に応じて規律を設計していること。第三に、基準日時点において、制度が完成した状態にないことです(出典: 同上)。
誰の見解かを分けて読む
報告書全文(資料1-2)では、前節の共通点に当たる三点は第4章に「(評価)」として書かれた調査担当者らの見解で、調査の発注者の見解を代表しないと明記されています(出典: 消費者委員会事務局 資料1-2)。専門調査会の結論や政府の方針ではないと、私たちは読みました。
法務が確認したい3点
以下は私たちの考えです。個別の事案への当てはめは、弁護士など専門家にご確認ください。
既存の消費者保護法制から棚卸しする。 提供先ごとに、一般の消費者保護法令が自社のAI機能に及ぶかを、用途や機能の単位で整理します。
「確認できていない」を「ない」と読まない。 調査で確認できなかったことと、規制が働かないことは別です。執行事例が見当たらなくても、禁止行為の趣旨に沿った設計を安全側の基準とします。
更新を前提に、追う担当を決める。 制度は完成しておらず、声明案など案の段階のものは変わり得ます。担当と頻度を決めて記録します。
まとめ
- 専門調査会は2026年9月18日の第10回会議で、EU・米国(連邦)・中国の制度的対応に関する委託調査の概要報告を取り上げた。基準日は同年9月9日
- EUはAI法を軸とするが、第5条を適用した執行決定・司法判断も、官報に参照が公表された整合規格も、基準日時点で確認できていない
- 基準日時点で、米国(連邦)にAIを横断的に規律する法律はない。中国は2026年7月に擬人化された対話サービスの弁法が施行されたが、「過度の迎合」等の確定した判断基準は確認できていない
- 三法域の共通点は、AI固有の規律のみで保護が完結しないこと、用途等に応じた設計であること、制度が未完成であること。全文では調査担当者らの見解
海外の動きは、確認できていることとできていないことを分けて記録し、更新を追うことが大切です。止めるだけでなく、その道筋を示すのが法務の務めだと私たちは考えます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。